2002/07/24(水) おとといのちゅう、その一。

決していやなキスではなかった。ていねいで濃厚なキスだった。唾液のにおいが強いなと思いながら力を抜いて受けた。公園のベンチで。5日前のことだ。

年上の男とキスするのは久しぶりだ。3歳の女の子と5歳の男の子と32歳の妻を持つ52歳の男性だった。声をかけられて3時間後にオレの子供を産んでくれと言われた。3日後に携帯に電話をした。相手の声があまりにでかかったのでわたしは怯えた。

かびくさい冷気を吐き出すエアコンのついた部屋に入った。窓には目隠しのシールがはってありそのせいで部屋が黄色い。男の愛撫はいやではなかった。パンティをはいたまま内股にくちずけされるとわたしのクリトリスは尖った。ゆっくりと交接しわたしを上にのせるとそのはずみで男は果てた。「腰のひとふりでいってしまいました。うまいんでしょう」と言われたが別にそんなことはどうでもよかった。

今なら誰の子でも産む。犬の仔でも産む。

数年前、男にそう宣言したことがあった。だったらオレの子を産めよ、とは男は言わなかった。その男とは別れた。セックスだけはいっぱいした。

その「犬の仔宣言」を実行する時が来たのかと思ったのだ。でもやっぱり無理みたい。早々に果ててしまった男はそれが後ろめたいのかそのあと数時間おしゃべりをしつづけた。あなたの若いツバメちゃんだったらすぐ復活するのでしょうけどわたしは一度逝くと三時間は無理ですと言った。その通りです、とは言わずわたしは黙って笑っていた。あなたはわたしの若いツバメちゃんのお父さんと同い年です、とも言わなかった。


飲み屋を何件か経営しているという男は話題は豊富でやっぱり声がでかかった。自分ばかり話すのは馬鹿みたいだからあなたもなにかしゃべってください、と言う。しゃべりたいことはなにもない、というとそんなことで子供が育てられるのかという。どうしてどの男もその弱点を突いてくるのか。ずるい。あんたはわたしの子供じゃない。自分に閉じこもらず表現しなさいという。では「泣いてみます」と言いわたしはベッドに突っ伏して泣いた。シーツに15センチの染みを作った。

男の押しの強さが苦手だった。声のでかいのがいやだった。大きな字ではっきり書かないと男には伝わらないのだろう。小さな声でしか伝わらないこともあるのに。

男の車で次の待ち合わせ場所まで送ってもらった。

次はいつ会えますか 満月の晩にもしかしたら

連絡をするかもしれません。

(でももう連絡しません。次の生理が来たら番号を捨てます。)
こっちが本音です。

つづく