2002/08/20(火) 触れる。

向かいのマンションの2階のベランダに干してある布団が台風一過の強い風にあおられて今にもずり落ちそうである。布団の皮を洗濯バサミで2ヶ所止めてあるが何の役にも立っていない。

昨日から近所の野良猫がたくさん遊びに来ている。今は2匹。日向で皿に注いだミルクを飲んでいる。まだ若いお母さん猫で風邪っぴきだ。子猫かと思うくらい小柄でやせているのにおっぱいが張っていて重そうだ。どこかで乳やりをしているのだろうか。

先週の土曜に退院した男が四日目の今朝再入院してしまった。

風邪っぴきの猫は毛並みが悪い。背中の毛がそそけ立っている。早くよくなりなよとまたミルクを皿にそそぐ。彼女は野良だがもしかすると人間に飼われていた時期があるのかもしれない。家人が与える魚には手をつけないがドライフードなら食べる。皿の前に行儀よく正座して待っている。部屋の中も積極的に探検する。今は家人のタオルケットの上でまどろんでいる。

だが触ろうとすれば逃げる。にゃんとは鳴かず「しゃーっ」と威嚇する。

冬の朝のことを思い出す。

当時惚れてた男に強引に会いに行った。部屋に泊めてくれた。セックスもした。でも恋人同志にはなれなかった。わたしの負け。朝いっしょに部屋を出た。早朝の仕事を持つ男は始発で出かける。真冬の朝5時。星がまたたいている。自販機で温かい飲み物を買う。それで温もった手の平で男のほほに触れようとした。

まさか平手打ちをくらわされると思ったわけではあるまいが、男は反射的に「びくっ」っとした。目の奥に威嚇の表情が生まれた。一瞬の事だ。その光はすぐに消えて、「あ、あったかい…手袋してるからか」と言いわたしは「ううん缶コーヒー」と言い何事もなかったように電車を待った。

あの「びくっ」が忘れられない。

触れる、ということ。

皮膚に触れる指先。

心に触れる言葉。

男からのメールは確かにわたしの心に触れる。さ、泣いてばかりいると嫌われちゃうから仕事でもしよう。