2002/08/06(火) ③8月1日、焼きソーメン、ホームレス、RPG、花火迷宮。

昼に起きる。空腹だというTのために焼きソーメンを作る。それとは別に買い物に行ったT。お茶と冷凍のシーフードミックスを買って戻る。何かドンとした物が食べたいというからお弁当でも買って戻ってくるのかと思ったら具材のみだった。1把しか茹でてないのにいいのか、と聞くと「いい」という。食べる前にプロテインを飲んでいた。

わたしは自分用にジャーマンポテトベーコン抜き(またこれだ! なぜかTの部屋に玉ねぎとじゃがいもがあったので)を作った後、ソーメンを茹でめんつゆ塩コショウで下味をつけ玉ねぎとシーフードミックスと合わせて炒める。失敗。敗因は鍋で炒めたこと。一番おいしいおこげの部分が鍋の底にべったり張りついてしまった。シーフードミックスの水気が出たせいもある。おこげを割りばしでこそげて取るとちりめんじゃこのようだった。それでもおいしいと食べるT。金がなく実家からの仕送り物資のソーメンを食べているがどうもソーメンは好きじゃない(そりゃ薬味がしょうがだけじゃあねぇ)と言うTに、かりかりになるまで炒めて食べるとおいしいよと電話で話したことがあったのでその実演だったのだが。

昼から夕方まで仕事。5時には切りあげる予定だったが押してしまった。

普段歩いて行けるもしくはチャリで行ける範囲でしか行動しないわたしたち(せいぜい地下鉄で大泉緑地天保山、ちんちん電車で新世界、程度)にしてはめずらしく、電車に乗ってPL花火大会に行こうというのである。雑誌には一時間で12万だか16万発の花火を上げると書いてあった。天神祭で3千発って、どういうこと? と、ひとりで天神祭に行き、人がいっぱいで立ち往生した橋の上でちょうど花火が始まって右と左とステレオで花火が上がるのを見たというTが言う。その話をメールでもらって「いいな花火見たいな」とわたしが返信したのがきっかけ。わたしが行ける日程の花火大会を友達に聞いたそうだ。天王寺まで出たら私鉄で30分ほどらしい。ゆかたは昨日着て気が済んだので洋服で行く。足元だけは下駄なんだけどさ。

再びリュックに保冷材を入れ地下鉄へ。御堂筋線に乗換えるとすでにゆかた姿の娘がわんさといる。天王寺の駅に着くなりダッシュをする娘たち。なんだかなあと思って進むと会場までの往復切符を買うために行列ができている。片道430円。高いな。結構乗るのか。列に加わって、これから遭遇する人ごみを思うと気分が臆して「最後まで見ないで途中で切りあげて帰ろうね」と弱気な提案をする。現地で調達するつもりだった飲食物もここで買ってから行こうということに。

枝豆、チーズ入りちくわ、乾き物とポカリスエットをコンビニで。「完璧~」とここまではご機嫌だったわたくし。ケンタッキーフライドチキンでチキン4ピースを買っている間にビールを買ってくるとTが出て行った。買い物の袋をカーネルサンダース叔父さんの左手に持たせてTを待つ。が、戻ってこない。どこまで行ったのだ。10分が過ぎる。しゃがんで待つ。15分が過ぎる。下駄を脱いで裸足になってしまう。20分たってTが戻ってきたときは膝を抱えて座り込んでいた。

「月子さんそれ怖い。ホームレスのおばさんみたい」

うう。そりゃわたしもみっともないとは思いましたさ。でもここで待っててと言われて座れる場所に移動できず昨日からのハードスケジュールでかなり参っていた。最初から20分も待つとわかってりゃ席に座ってるよ、と先が思いやられる精神状態。倦怠期カップルならここでまず大喧嘩でしょう。(あれ? いずみちんの日記にもこんな状況があったような……笑)でも駅の周りをかけずりまわってようやくビールを手に入れてきてくれたTの顔には汗がしたたって、健気。わたしも駅の売店で簡単に買えると思ったんだけど、どこにも売ってなかったんだって。ぐるっと回ってコンビにまで行ったそうだ。ご苦労さまさまだったの。

さて近畿日本鉄道大阪阿部野橋駅の改札をくぐると階段からホームまで人が鈴なり。押すな走るなと係員が誘導。準急列車に詰め込まれ藤井寺までは一駅しかとまらずそれからが各駅停車で郊外へ行けば行くほど一駅の区間も長くなり7時をまわって日も落ちてどんどん暗くなっていく。普段めったに電車に乗らないTは長距離輸送中の野生動物のように密閉され移動する空間に無言で耐えている。自称「ゴリラ並にストレスに弱い」男なのだ。わたしも満員電車は苦手だけれど、通勤時の中央線に比べたらその半分くらいの詰まり具合だから短時間なら我慢できる。花火に行きたいって言い出したのわたしだし。

富田林(とんだばやし)に着いたのは7時半ぐらいだったろうか。車両通行止めになっている沿道にびっしりならんだ屋台や、駅近くの場所を陣取る人々を横目にどんどん歩いて進む。公園みたいな場所があるのかと思いきやそんなところまでは近寄れないらしい。また押すな走るなあわてるなと拡声器でがなりたてる警備員の脇を通り行ける所まで行く。途中で花火が始まる。7時45分。一等地には高々とテントが張ってあり入場規制。それ越しにでないと見えないようになっている。PL病院を背にしたあたりの沿道に空きがある。「ここでいいんじゃない?」ひきかえして来る人も結構いたのでそういうと「もうちょっと先まで進みたい」とT。ならば、ともうひとがんばり進んでみると確かによく見えるポイントなのであろう、道幅いっぱいに人の頭がびっしり並んでいる。しかもみんな立って見ている。わーお、もう座って休まないと帰る体力がないぞ。立見は無理~、とさっきの場所に引き返し昼間の熱気を吸込んで生温かいアスファルトの上にようやく腰を下ろす。

まずは花火よりビールである。保冷材のおかげで冷たいビールにありつける。さっきまでも手を繋がずリュックの冷たい下のほうを掴みながら歩いていたのだ。Tはポカリスエットを一気のみしてからまたまたDATを取り出し花火とその歓声を録音。空腹と疲れたからだにビールを流し込みツマミを食べつつちらちらと横目で花火。チキン1個を平らげるころにやっと落ち着いて花火を見ようという気持ちになり、メインは花火、横目でツマミという感じに。Tはロング缶を買ってくれたんだけど小さいので足りたと思う。少し残してしまった。この場で30分ほどビールと花火を堪能。前半の山場とおぼしき単色の花火が好きだったな。カラフルなのじゃなくて。

「8時半になったら行きますよ」

そろそろね。Tに促されて腰を上げる。道々後ろのギャルな娘達の上げていた歓声を真似するがそれはイントネーションが違う、と直される。「めっちゃキレー!」「すげーやべー」「やっべー! キレー!!」「超キレー!!」花火が打ちあがる度にすぐ後ろでやべーやべーの連発なので風情も何もあったものではなかったが2人の会話は別の意味で面白かった。自転車で来たらしいよ。明日友達に自慢するって言ってた。彼女達も花火といっしょに打ち上げてしまって欲しかった。あのありあまるエネルギー、きっとキレイな花が咲く(かどうかは知らん)。PL花火は他と比べ年齢層が若い、というのがTの感想。下の方の花火が「見えなーい」と彼女達がブーイングしているのを「上がったのだけ見ればいいじゃん」とぼそっとつぶやいていたT。大阪の女の子は苦手なんだってさ。

駅近くまで歩いてきてふり返ると花火が遠くにある。さっきまで随分近くにいたんだなとわかる。来た道を引き返せなくて別の道を行く。踏切を渡ったところでどうやら最後の打ち上げ花火だったようだ。2ヶ所から同時に大量の花火が上がり人々が歓声を上げる。それと同時に駆け出す人もいる。わたしたちも足早に駅を目指すが、人が殺到するのを避けるためまっすぐ駅へ向かえないよう迂回路が設けられているらしくすぐそこの駅になかなかたどりつけない。花火迷宮。1回は完全に同じ道を2度回された。そういう作戦なのか? Tは踏み切りの鉄柵に膝をぶつけるし散々。

ディズニーランドの人気アトラクションを待つかのように近鉄電車に乗るために大勢の人と並んで待つ。列はじわりじわりとしか前へ進まない。街灯の下で蝉が鳴いて夏の夜の暑さをよりいっそう盛り上げている。「最後まで見ていた人達と結局一緒になっちゃったね」と言い合ったがふと振り返れば恐るべき長蛇でしかも大蛇の列が見える限りずっと後方へぐねぐね迂回しながら続いており、警備員(おまわりさんか?)が柵を乗り越える反乱者が出ないように目を光らせている。そういえば会場近くの歩道橋も封鎖されていたしな。将棋倒しは怖いものね。だからもしあの場所で最後まで見ていればあの列のずっと後ろのほうにつくことになったのだ。そう思って残りの行列を我慢する。ふと足元が空くとうちわが落ちているのが目に入る。「拾え!」とTが言うのですかさず拾う。アイテムゲット、ロールプレイングゲームか。「今コマンド入力したでしょわたしに」と言いながらTの首筋をうちわで扇ぐ。まだこれから電車に乗って帰らなきゃならないんだ、大変。

心底乗り物の苦手なTは、ひとりなら一晩かけて歩いて帰るとか、ここで夜明かしして始発で帰るとか、今度来る時は自転車で来てみようとか、南海電鉄を使ってそっちの最寄駅まで歩いたほうがよかったなとか、混んでる電車に乗らずにすむ様々な手段をシュミレーションしていた。「電車通勤してる人は偉いよね。偉大だね」と何度も言っていた。足に合う靴さえ履いていれば一晩中歩くのもちょっといいなと思ったけど、わたしがまた来年PL花火を見ることはあるのだろうか。今のところまったくわからない。

行きの切符には赤で、帰りのは緑でスタンプが押してあった。改札も臨時に増設されたもので地下通路も封鎖してあった。富田林始発の準急に乗って天王寺まで。御堂筋線もきっと混んでるだろうと、恵美須町方面まで歩き阪堺電車で帰った。電車の中では溶けかけの保冷剤をずっと首や額に当てていたTは「藤井寺すぎたあたりから実はやばかった」と言い、一気に帰らないと帰れなくなる、とわたしの手をぐいぐい引いていたかと思うと、気分が悪いから触らないで、とひとり先を歩いていたが、南霞町の駅が近づくと「持ち直しました」と言って手を繋いでくれた。道には何メートルかおきにおっさんが寝ている。1泊2000円という宿を横目で見ながら青になった横断歩道を渡ろうとすると「そっちじゃない、そっち行くと飛田」と言われた。阪堺電車は空いてて冷房がきんきんに効いていた。そりゃもうくたくたに疲れたし、見ながらちゅうどころじゃなかったけど、やるだけのことはやったという感じで気が済んだ。幾多の苦難を乗り越え帰り着いた我が家という感じで。けっこう達成感がある。来年も同じコースを行きたいとは思わないけど。ローソンに寄り道してアイスを買って部屋で食べた。一緒に風呂に入ってからまた眠気の限界までおしゃべりして眠った。

花火の後のセックスって、なんだかいいですよ。

つづく。