2002/07/24(水) おとといのちゅう、そのニ。

十年来の友人と仕事の打ち合わせもかねてビールを飲みながら食事をした。

焼きうどん、冷奴、若鳥唐揚、気まぐれサラダ。

お通しは温泉玉子。出し汁がおいしい。

友人もわたしも小食で、気まぐれサラダに豆腐が乗ってるのを見て、これは余計でしたね、と冷奴を指して彼が言った。野菜も豆腐もおいしかった。唐揚げも。

さっきまでいっしょにいた男の話をかいつまんでした。行動的ですねと言われる。むしろじっとしていたいのですと言う。厄年だし。たまに出歩くと棒にあたるんです。今日はちょっと冒険してきましたとわたしは言った。

友人はわたしより4つ年上でぼくもあと2年で厄年、と言う。変化するのはいいことだから悪い事ばかりじゃないと思うよと彼は言う。用心していればいいんですね、とわたし。

大きな声じゃなくても構わない。無理に何か「しゃべらなくっちゃ」なんて思わなくていい。しゃべり続けなくていい。伝えたい気持が言葉になって口に登って来るのを待てばいい。会話の合間に友人の顔を見るとちょっと疲れた様子で飲み屋の椅子にもたれて目が合うとうふっと声を出さずに笑った。お互いに何かしゃべりたくなるまではそのままでいいのだ。目を合わせてうふっと微笑みあっていればそれで。

店を出ると、公園を散歩しましょうかと言われた。

いいですよ、と言って歩き出した。

月が太ってきたと夜空を見上げて友人がいう。もうすぐ満月なのだ。

普段、山の家に住む友人の歩みは速い。転びそうになると肘を支えてくれた。そのまま手をつないで歩く。夜だというのに人気の多い公園をはずれてわたしが時々昼寝しにくる三角公園まで月光と街灯と夜気を浴びておしゃべりしながら到着し、友人は空いてるベンチを選ばず広場の真中に寝転んだ。

夜露が降りる時刻にはまだ早かった。友人の隣に寝転ぶ。芝生が肌を刺す。眼鏡をはずしたわたしには星が識別できない。友人が腕枕をしてくれる。心臓の音が聞こえた。

そのまま地面に背骨を横たえてまたぽつぽつとおしゃべりをする。大きな公園の喧騒を逃れるといろんな音が耳に入ってくるようになった。音の多いところでは耳が入ってくる情報の量を制御しているのだろう、あえて感度を低くして。

人気の少ない公園でもいろいろな音が聞こえてくる。電車が駅に入ってくる音。夜更かしの蝉の声。花火の音。公園の傍を流れる小川から水の音。友人が芝をちぎる音。夜の散歩をする人の衣擦れの音。自転車が走り去る音。そしてお互いのしゃべり声。

頭をなぜられるのは気持がいい。キスを交わしても興奮せずむしろますますリラックスしていく。安心する。この人の体の匂いを嗅ぐのは久しぶりだなと思う。唾液や汗や皮膚の匂い。

友人はわたしの頭を嗅いで「銭湯の匂い」と言ったので笑った。銭湯はずいぶん行ってないな。シャンプーの匂いがしたのだろう。

彼とセックスをしたことはない。しょっちゅう会うわけでもない、ただ時々とてもそばにいる、大切な友人。小さな声が伝わる人。これまでのことを話し、これからのことを話した。

あなたは子供が欲しい人だったのだよね。

と、あお向けに横たわるわたしのお腹を撫ぜた。彼には3人の男の子がいる。

12時をまわったころ起き上がってまた手をつないで歩いた。あなたとはいつか時間を気にせずいっしょにいられるといいね、まあ60くらいまでにはかなうでしょ、と友人が言った。そして最近知り合った女性の話を聞かせてくれた。彼の追っかけみたいな人がいるんだって。

それではまた、と駅でハグして別れた。

彼とはきっとまた会う。

つづく