2002/07/06(土) そうだ恋をするにも才能というものが必要だったのだ。

料理と一緒で。

才能というのが大袈裟ならば、「向き不向き」と言い変えても良い。「得て不得手」のほうがよりよいかな?

食欲があるように誰にだって性欲はあり、お腹をいっぱいにしたければ、とりあえず何か口にすればいいのだから、とりあえずセックスさえしておけば、性欲は満たされる……のだろうか。そうなのだろうか。

おととい、ある方とお会いした。男性。会うに至る経緯はここでは面倒なので省略するが、お互いの中間地点ということで渋谷を選び7時に待ち合わせたのだが平日にも関わらず渋谷の駅前は恐ろしい人出で騒々しく叫びに似た奇妙なエネルギーが渦巻いておりそれだけで消耗してしまった。渋谷の人出は凶暴だ。花見時の上野もたいそうな人出だったがここまで疲れたりはしなかった。

初対面の彼と道元坂を登って百軒店(ひゃっけんだな)へ。道頓堀劇場渋谷店の前を通り「B・Y・G」という飲み屋へ。渋谷は7~8年ぶり、という彼に変わってわたしが選んだ店。最初は適当な居酒屋でいいかとも思ったが、これ以上喧騒に包まれていたら何も考えられなくなってしまう。

店は空いていた。ほっとする。ただうっかりスピーカーの真下の席を取ってしまう。気がついたが移動するのが億劫でそのまま。アナログレコードの音が心地良かったので。そのかわりお互いの声が聞き取り憎くなってしまった。

生ビール。ゴーヤーチャンプルー、ブルーチーズ、トマトのサラダ。途中彼は生ビールをおかわりし、わたしはボンベイ・サファイアのロックをおかわりした。

話の内容は、人生相談と言ったらそれこそ大袈裟だけど、彼が経験したネットのトラブルのことや仕事のプレッシャーについてとか結婚のことなどを話した。わたし自身の話も質問に答えつつ少し。

彼との待ち合わせの前に表参道へ寄り道してちょっとした買い物をした。それから歩いて渋谷まで出て、うる覚えだった店の場所を確認し、地下のデリカスクエアでひと息ついた。生ビールとコロッケ。

おとといは急に気温が上がり東京は蒸し暑くみな不機嫌な顔をして歩いているように見えた。実際に道端でケンカしてる人も見かけた。「オレの目をみろよ!」恋人同志なら甘いセリフだが男同士の口喧嘩で今にも手が出そうだった。交差点で人も多かった。デモンストレーションなのか。信号が変わったので足早に立ち去る。本屋で文庫本を買った。冷房が気持ちいい。

で、待ち合わせの時間まで文庫本を読みながらコロッケを突ついていた。ちょうど十年程前、女友達とルームシェアをしており、三軒茶屋のマンションに住んでいた。渋谷で乗り換えるからその頃は、仕事の帰りにちょっと寄り道したりしたものだ。確かにそのころから渋谷は物凄い人出だった。でもこれほど凶暴だったろうか。禍々しさに満ちている。わたしの免疫力が落ちているのかもしれない。

初対面の彼よりも平日の渋谷の人出の方がインパクトが強かった。飲み屋を出て道玄坂のラブホテル街を後にし、コーヒーショップでもう少し話をする。ここもまたすごい人の入りだ。ぜったい渋谷でバイトしたくないぞ。どんなに時給が高くても。

10時を回った頃「眠そうですね」と言われ帰ることにする。再び駅前へ。手を振って別れる。もちろん山手線は混んでいる。新宿で乗換え中央線へ。さっきよりは空いているので文庫本を取り出し続きを読む。途中止まりで乗換え。どうりで座れたと思った。向かいのホームへ来た電車に乗る。また文庫本。あれ? なんだかすごく気分が悪い。

もう電車は走り出していた。次の駅で降りよう。ほんの2~3分のはず。我慢できないことはあるまい。文庫本をバッグにしまいつり革につかまる。しんどい。吐く? いやそれはない。光度が落ちる。暗い視野に光がちかちか。倒れるかも。もう少しもう少し、もう少しで駅につく。すぐに降りられるようドアーの側に移動。つり革につかまってられずしゃがみこんでしまう。

ようやく駅に到着。ベンチに座る。お腹にバッグを抱え頭を下にする。トイレどこだっけ? そこまで行けるかな? 吐く? 吐きそう。でもここでは吐きたくないな。我慢しよう我慢我慢大丈夫大丈夫。気がついてカーディガンを脱ぐ。ノースリーブの両腕が涼しい夜風にあたり少し持ち直す。なんとか吐かずにすみそう。

生ビール2杯とジンのロックが1杯でしょ? しかもシングルだし。

飲みすぎのわけがない。たいして酔ってもいなかった。きっと人あたりだ。

幸い空席に座ることができ、あとふた駅を持ちこたえ、深呼吸をしながら家までゆっくりゆっくり歩き、自分の布団に倒れこんだ。家人は家人で会社の同僚と飲んできたそうで、いろいろと話を聞かされたが上の空で相づちを打ちながら何度も水を飲む。家人が寝てから心おきなくトイレで吐いた。これで眠れそう。恐ろしきかな渋谷の人ごみ。

恋する才能についての話が後回しになってしまったけれど続きはまた。

いつも庭に来る猫が頭のてっぺんに傷を負っていた。時々猫同士で縄張りあらそいをしているからパンチでも喰らったか。体を丸めてひたすら寝ている。わたしも昨日はひたすら寝た。何か面白い夢を見たのだが、忘れてしまった。

それではまた。

 

f:id:meatmoon:20180125222543j:plain


月子